2018.10 恐るべし!ブルネイ・ダルサラーム国(ブルネイ)の母子医療/産科医 竹内正人 takeuchimasato.com

恐るべし!ブルネイ・ダルサラーム国の母子医療

2018/10.10 FBページ

 ボルネオ半島、マレーシア領に囲まれた三重県とほぼ同じ面積で人口約40万人の小国ブルネイ。石油と天然ガスなど資源の恩恵で、税金、教育費、医療費ほかが無料と豊かな国であることは知られているが、この国の母子医療ははたしてどうなってるの? そんな素朴な疑問から、今朝コタキナバルからブルネイ入りしたばかりだが、じりじりと陽が照りつける酷暑の中、とりあえず遠方に見える大病院めざして歩を進めることにした。ブルネイにはUberマレーシア版のGrabはなく、タクシーも少ない。仕方ないので道なき道を歩いて1時間(歩く人はまずいないので歩道が整備されていない)、何とか国立母子医療・婦人科センター(Raja IsteriPengram Anak Saleha Hospital)にたどり着く。

中に入ると閑散としているが広い!でかい!が第一印象。 日本の国立成育医療研究センターに近いイメージか。さて、どこへ行くか?外来は少し閉鎖的な感じがしたので病棟へ直接上がり、入口の警備員さんに事情を説明し何とか中へ入れてもらう。それでも病棟カウンターでは、医師は忙しいので保健省で許可をもらって改めて来てくださいとつれないお言葉。まあそうなんだろうけど、そうもいかないので、あきらめずにいくつか別の病棟へまわりチャレンジしてみると、幸運にも7階婦人科病棟の看護師さん、助産師さん経由で産婦人科医(DR RASYDAH)と話すことに成功。この国のお産事情、子育て、家族事情を幅広く楽しく聞くことができた。
さらに、彼女のすすめで、管理課へ行き受付の方に懇切丁寧に訴えかけると、幸運にも産婦人科トップで保健省の重職にもつくDR AZIMAHにつなげてくれた。DR AZIMAHがまた親切な方で、この国の母子医療の概観についてレクチャー、さらに病院全体を案内までしてくれることになった。(彼女は各部署で、私を日本から来たDr. Takeuchi と紹介したあとに、ただの旅行者なんだけどね‥とつけくわえ、皆の笑いを誘ってくれた。ダチョウ倶楽部ではないがつかみはOK!これは大切)
というわけで、とても貴重な時間を過ごすことができたので、皆さんからうかがったことの一部をシェアする。

・国のはお産は年間6000件ほど。ブルネイは4地区にわけられそれぞれに小児科併設の国立の二次母子センターがあるが、首都バンダルスリブガワンにある当センターがそのうち約5000件を扱っている。私立病院でお産を取り扱えるのは1か所だけ。
・エボラ感染妊婦に対応できる隔離陰圧分娩室ほか、想定できるあらゆる状況に対応できる設備が、実に機能的に、しかもデザインにまで気を配り整えられている。
・ハイリスクは基本的に当センターで、超未熟児などもこちらへ新生児搬送。
・小さい国で、人的資源も限られているので、国が決めた施設(計5施設)でしか産むことができないよう集約化されている。自宅出産はできない。
・全国で産婦人科医は約40名、うち当センターに33名。産婦人科医はすべて女性!(と決められている、DR AZIMAHは抵抗はあったが勝ち取ったと)と、いうことは今この国いる男性産婦人科医は私だけ!
・国内に正式な医学部はないので、医師志望者は国費でUK、ニュージーランドなどへ留学。帰国後の義務年限は10年。
・帝王切開率は20%強と日本と同じくらい。骨盤位は帝切だが、TOLAC(前回帝切の経腟試験分娩)は施行している。
・妊娠高血圧症候群、糖代謝異常合併妊娠が多い。
・分娩体位は基本的に分娩台上の仰臥位で、時に横位はある。この国では水中分娩、ヒプノバースなどは許されない。
・モニターは中央管理システム。
・硬膜外無痛分娩は数少ないが提供している。これも無料。その他、笑気ガス、ペチジン注射もあり。ただ、大多数が自然分娩。
・カルテはこの病院だけでなく、国中がひとつの電子カルテシステムになっているので、どこの病院にかかっている患者の情報もみることが可能。
・母乳育児に熱心でBFH(Baby Friendly Hospital)である。
・医師、看護のスタっフの多くは、4~5人の子どもがいる、大家族で住み、両親あるいはに子どもを見てもらうか、お手伝いさんを雇う余裕はある。
・ポリガミー(一夫多妻)の習慣は残っている。DR RASYDAHに、ご主人から別の女性とも結婚したいとたのまれたら?と聞くと、状況にもよるが受け入れるとのこと。
・NICUは23床。呼吸器6台。後方ベッドのGCU多数。赤ちゃんの産まれた状況にもよるが、妊娠23週から対応。
・NICU専門医は2名で、海外からのレジデントはいるが超激務!!
・健診、分娩費も無料だが、病室代は多少支払う必要がある。その病室も日本にはないくらいゆったたりとして豪華。それでも、病院にかからない妊婦もいる。これは教育の問題かと。システムはほぼ理想的な形に近づくも、国民の意識改革までは十分にできていないと。
・婦人科手術、子宮筋腫、子宮癌なども無料。多産にて子宮脱が多く、腹腔鏡手術も提供しているが、腟式子宮全摘術が多い。
・不妊治療も人工授精までは無料。体外受精は公的病院では提供しておらず、希望者は私立病院で自費で施行
・人口40万の国が、他国からの借款なしに、これだけの施設(日本でもこれほどの母子センターは少ないのでは?)を建てたとのこと。医療機器も最先端のものが導入されていて、人的資源は少ないながら、医療レベルはかなり高い。
・ここ20年で周産期指標は劇的に改善した。
・ただし、年間分娩数が5~6000と母数が少ないので、妊産婦死亡が0人だとMMR0だが、1人なくなると20になってしまうなど、短期母子指標は参考にならない。
・ブルネイの母子医療、恐るべし!                                          

IMG_7890.jpg産婦人科トップで保健省の重職にもつくDR AZIMAHと
IMG_7869 - コピー.jpgDR RASYDAHと婦人科病棟スタッフと
IMG_7865.jpgNICUスタッフと